五つの傷が癒えるまで

40代ブラック勤めワープワのおっさんが今更Janne Da Arcを眺めるブログ

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五つの傷が癒えるまで~Shu's side-4~

 

結局タッツンには何も言えないまま自宅近くの病院を受診し、大した事ではない、風邪と過労だと診断された。今思えば、ここで何とかしておくべきだったのかも知れない。それからも気になる症状はありつつも、タッツンのソロがなくなれば他にサポートの口も見つけなければならず、ついつい身体の事は後回しにしがちだった。

 

病院で、大した事はないと診断されていた事も大きかった。それなら自分で何とかするよりないのだろう。特に解決策がないまま不調が続き、リハの度に立ち上がれない程フラフラになっている俺を見かねた事務所から紹介された病院で、翌週からの検査入院が決まった。

 

病院では実際に、検査に次ぐ検査だった。その後病名を聞かされ、治る見込みもあると慰めのように言われても、なんで今自分なんだという思いしか浮かばなかった。ジャンクをこのままにしてはおけないのに。

 

連絡を入れるとタッツンはすぐに病院まで来てくれた。やっぱり、挙動は少しおかしかった。本人はバレていないつもりなんだろうな。

 

あくまで検査の為に入院しただけ、と言う俺に、まるで自分が悪いかのように申し訳なさそうな顔をするタッツン。俺の事より自分こそ、何がどうなってるんだよ。一体どこからどうやって、元に戻すつもりなんだよ。

 

何もそんなに難しい事は求めていなかった。機嫌よく楽しんで、精一杯真面目にベースを弾いていてくれればそれで良かったのに。

 

若い頃のタッツンは、男なら1度は憧れる類の男だった。自分の事は放っておいてくれ、と言わんばかりの空気を纏いながらも、信じた人間の為ならとことん何でもやってしまう。関西系らしく気さくな所がありつつも、生真面目でアーティスティックな面もある。投げやりで大雑把なふりをしながら、細やかで繊細な気遣いを見せたりもする。

 

危ういバランスで時折顔を出す優しさと見た目の良さも相まって、当然よくモテた。関わる女性は大変だっただろう。典型的な不安定男。そうであってさえ、同性が憧れるには十分だった。それが今や見る影もなく、本当にただ危ないだけのおかしな中年になり下がってしまった。

 

ジャンクが続いていたら、何か違っていただろうか。今も5人で、一緒に居る事ができていたとしたら。俺の病気を理由に使っても構わない。無理にでもどこかで、ルートとタッツンを引き会わさなければ。そう思って枕元の携帯電話に手を伸ばそうとしたのは、急な激痛に声も出せずにナースコールを呼ぶ、ほんの数秒前だった。

 

分かって、いたはずだ。ルートがソロを建前に、まるでもう忘れたかのようにジャンクをずっと避け続けていれば、いずれこうなってしまう事ぐらい。タッツンも同じだ。ジャンクに戻る事を本当は誰より望んでいながら、最初から諦めていたのは自分じゃないのか。ひょっとしたらこの先作り出せるかも知れないチャンスを、わざわざ自分から潰してしまったんじゃないか。

 

必死になっても結局ダメかも知れない、戻った所でやっぱり途中で壊してしまうかも知れない。それを怖がって肝心な所で引いていたのだとしたら。気持ちの上で負けたままで頭を止めてしまっていたのなら、それこそ最初から上手くいく訳がない。

 

俺にだって当然、責任はある。そんな事ぐらい、分かってる。ルートのせいでもタッツンのせいでもない事も、よく分かってる。だけど本当にジャンクはどうにもできないままで、今頃になって更にどうしようもない終わりを迎えてしまった。

 

いつかまた、5人が一緒に居られる未来がどこかにあるとして。みんなの幸せそうな顔を見れば俺だって嬉しい気持ちになるだろうし、自分にとってもそれが1番いい道である事も、よく分かってる。

 

それでも、どうしても。俺はルートを許さない。絶対に。

タッツンの事も許せない。どうしても。