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五つの傷が癒えるまで~Kino's side-1~
音楽性なんて、最初っからみんなバラバラだった。
歌が上手いから、楽器ができるから。
そんな理由で一緒に居た訳じゃない。
歳を取れば取る程、ヴォーカルなんて下降していく。
もしルートが歌えなくなったって、誰かが楽器を弾けなくなったって。
そんな事どうでも、良かったんだ。
音楽だけで繋がってた訳じゃない。
ただのビジネスだったなんて思いたくもない。
考えが甘いと言われても。今になってさえ、全員が代えのきかない、大切な存在。
それだけが最後に残った、俺の真実なんだよ。
休止後の周囲の反応は、ありがちな音楽性の違いやメンバー間不仲説に始まって、事務所やスタッフと揉めたとか、果てはシュウの女癖だのユータはユウレイ見えすぎてノイローゼになっただの、俺がガチでオカマだったからなんて話まで飛び出していた。
見た目や趣味で人を判断しないでほしいものだ。
どうしても、ジャンクを失いたくなかった。
その為に止まらざるをえなかったんだ。
今無理強いして続けさせるなんて、とてもできない。
自分達も気付かない間に、ジャンクは疲れきってしまっていた。
実は挫折知らずのジャンク。そう言うとメンバーはみんな笑うけれど。
俺達に降りかかる程度の問題なら、他のバンドにだってきっとよくある事。
自分達でしっかり手を携えて真っ直ぐに進む事さえできれば、ジャンクは大丈夫。
なら、大丈夫じゃなくなる時は?答えはそのまま、繋いでいた手が離れてしまった時だった。他のバンドにだってきっとよくある程度の事で、俺達は簡単に5人の未来を見失った。
俺は気付いていなかったんだ。そんなにも事態が深刻だった事に。
自分のソロアルバムが出せた事は嬉しかったし、ルートがゲストで歌ってくれた事もユータのソロを一緒にできた事も、幸せな事だった。
だけど、ソロなんて結局バンドありきの話。
いつまでも1人で居続けるのは不安で、苦痛でしかなくなっていった。
音楽をやる方法なんて、実際には幾らでもある。
バンドかソロかなんて話にこだわらなくても、他にサポートだってスタジオミュージシャンだって、曲を提供するでもプロデュースであっても、何なら誰かに弟子入りしたり人に教えたり、スタジオや楽器屋を経営する事だって、音楽に違いない。
きっともう、そっちを探した方がいい。
そう思いながらどうしてもできなかったのは、ジャンクが好きだったから。
ジャンクに居る時のみんなが、好きだったから。
ルートが売れていく事は、最初から織り込み済だった。
それがなければ、そもそもソロ活動なんて認められなかった。
バンドで売れたヴォーカルが、メンバーを置いてソロに転向し、1人で有名になる。
本来ならルートが1番嫌がりそうなその道を、結果的にルートは自ら進んで選んでしまった。