五つの傷が癒えるまで

40代ブラック勤めワープワのおっさんが今更Janne Da Arcを眺めるブログ

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五つの傷が癒えるまで~Yuta's side-1~

 

 

ギターさえ弾ければ、それでいい。それしか考えていなかった俺に、違う世界を見せてくれたのはジャンクだった。

 

自分のギターが、大きな音の中の1つになる事。

誰かが歌ってくれる事。聞いた誰かが、笑顔になってくれる事。

全部、ジャンクが初めて俺に教えてくれたんだ。

 

ジャンクの休止が決まった後、とにかく急いでソロを始めたのも、メンバーに聞いてほしかったからだった。誰よりも、目の前に居たはずのみんなに、分かってほしかった。

 

俺は今でも、こんなにもギターが好きなんだよって。

俺はジャンクのギタリストだから、だからこそ、ギターを好きでいられるんだよって。

 

雰囲気が悪くなっている事は、何となく分かっていた。急に売れて、急に忙しくなって。自分達でもこの速さについていけない、と思う事が増えていた。

 

せっかくアルバムを作っても、お披露目できるのはたった数回、その年のツアーを回る時だけ。平行してシングルを作っても、また次のアルバムに入れる事を考えなければならない。アルバムを作ったらまたツアーを回って、の繰り返し。曲作りにもリハにも、かけられる時間がどんどん減っていった。

 

売れたらもう少しやりやすくなる、と思っていたのに、現実は逆だった。大きな会場でライブができたり、シングルでヒットを出せる事は純粋に嬉しかったし、ありがたい事だった。だけど、ジャンクだからできる事がもっとある、もう少し時間をかければ、もう少し余力があれば。

 

もっと練習したい、もっと考える時間がほしい。もうちょっと曲を詰めたい、もうちょっと今までと違う事をやりたい。もっと色々な音を聞いて、自分の引き出しを増やしたい。もっと違う発想ができるようになりたい。

 

もっと、もっと、もうちょっと、もう少し。そう思ううち、アルバムの中の1曲のたった1小節にも考え抜いたフレーズを盛り込み、難しすぎる楽曲は再現性を欠き、かえって自分の首を絞めた。

 

それでも、何か1つでも、新しい事ができなくちゃ。人目に付くようになったおかげで抱えてしまった悩みのような、欲のような、責任感のようなものに振り回されている間に、バンド内の空気はどんどんおかしくなっていった。

 

元々人の感情に敏感な俺。周りの誰かが嬉しそうなら一緒にニヤニヤしてしまうし、誰かが不機嫌なだけで具合が悪くなってしまう程だ。

 

5人で居るのが1番楽だったのに、いつの間にか一緒に居るだけで息をするのも苦しくなった。いつも責められているような気がして、でも理由も分からなくて、そのうち顔を見るのも辛くなった。

 

焦りに苛立ち、怒りや嫉妬、それに、目の前が真っ黒になって全部飲み込まれてしまいそうな、特大の恐怖。およそ見た目では分からない、辛くて痛い感情がバンド中に渦巻いて、どうにもできずに休止が決まった時にはとうとう来たか、という気持ちと同時にほっとした気さえした。

 

覚悟が足りなかったのかも知れない。ルートと一緒に居る覚悟、タッツンと一緒に居る覚悟。ジャンクで居る、覚悟。少し離れて様子を見て、時間を置いて落ち着きを取り戻すまで待とうと、思うよりなかった。