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五つの傷が癒えるまで~Kino's side-2~
元々主役になるには少し弱い、キーボードという楽器。
他のメンバーの合間を縫うように隙間を埋めたり、他の楽器に被せて旋律を際立たせたり、音の厚みを強調するような別の音を作り出したりして、全体を聞いた時には紛れもないバンドサウンドが構築できているようにする。
荒々しいだけのロックバンドにはない聞きやすさ。
誰にでも気軽に受け入れられやすく、でも分かる人には分かってほしい緻密さで、1曲1曲に大衆性を宿らせる。
元々ジャンル違いの幅広い楽曲を、ごった煮のように展開するジャンク。それぞれの曲について、ギターやベースのアプローチも細かく違う。
それをとっちらかった印象にせず、誰がどこで聞いてもジャンクの音にする為に。
キーボードのソロなんてものより、余程そっちに気を遣っていた。
例えば他のバンドで、同じ事をできるだろうか?
サポートとしてキーボードを弾く事なら、頑張ればできるかも知れない。
でも同じ熱量で他のバンドを、そのバンドのメンバーを、支えたいと思えるだろうか?
無理な気がした。できる人ならできるんだろうけど、自分には無理な気がした。
それからは少しだけ他の人の曲を作ったり、誰かのアルバムに1曲だけ参加したり、何もしていない訳ではなくも、消極的にしか活動していない状態がずっと続いてしまった。
というより、それしかできなくなってしまった。
次々と身の置き所を変えられる程、器用じゃない。
ジャンクのキノです、と堂々と言える状況ならまた話は違ったと思う。
だけど、ルートのソロは加速し、タッツンとシュウも全国を回るツアーを何度もこなしていた。その上俺まで、他の世界に飛び込んでしまうなんて。
他に何もできない言い訳だ、と言われたとしても。
やっぱり俺は、ジャンクで居るのが正しい気がした。
みんなが戻って来るまで、ここで待ってる。
世間の誰もがジャンクを忘れてしまっても。
4人のうちの誰か1人でも戻って来たいと思った時には、いつでも迎えられるように。
そう思う間にも。メーカーは俺のソロなんかどうせ期待してないんだ、と1人イライラしたり、ユータやシュウはどう思っているんだろう、と聞こうとしても言い出せなかったり。
どんどん輝いていくルートを見て焦る気持ちもあるし、純粋に嬉しかったり誇らしい気持ちもありながらも、どこか悔しいような、やっぱり淋しいような気もして、ひょっとしたら自分達が知らないだけで全ては予定通りで、ルートが売れていく為の通過点として集められただけの、つまりジャンクはただの捨て駒だったのか、ジャンクなんか最初からやらなければ良かったのか、とさえ疑うようになって、そんな事まで考えてしまう自分がとにかく情けなかった。
こんなはずじゃなかったのに。
ジャンクの為に、一時的に離れる事をみんなで選んだだけだったのに。
みんなだって本当は、ジャンクで居たいはずなのに。
無理にいつまでもソロなんて、やっていてほしくない。
だけど。もうジャンクは過去の遺物なんだろうか。
もう終わった話なんだろうか。本当に最初から戻るつもりも、なかったんだろうか。
そう思う事さえ辛かった。