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五つの傷が癒えるまで~Root's side-5~
『ルートは今ここで必要とされてるし、1人でやるのも気楽でええかも分からんけど、ロックバンドのヴォーカリストである事に疑いはないやんか。やったら、やっぱりジャンクが一番似合ってるって。俺は、俺個人の事言って悪いけど、ルートでなかったら音楽なんかやらへんかったんや』
タッツンの目に、うっすら涙か浮かぶ。
『正直俺は当分戻っても来られへんけど、それでもやっぱりルートには、みんなと一緒に居ってほしい。ジャンクが止まったのは元々俺のせいやし、その事は今更もうどうともでけへんけど、それでも。大体考えてもみてや、誰が歌ってくれる訳でもないのに楽器だけで上手くなるなんて、限度があるんやで。ルートが居らへんかったら、ジャンクは成立でけへんねんから』
3人も集まってこちらを見ている。
『ほんまは何回も、途中で何とかでけへんかって思ってたねん。でもルートのABBは上手くいってたし、サポートの人らみんな上手い人ばっかりやし。ルートがもうその方がええんやったら、ジャンクよりそっちが大事なんやったらって、そう考えたらどうしようもなかった。上手い下手どうこうより、俺はジャンクが好きやったのに、ほんまは俺がもっとちゃんと…』
言葉に詰まったタッツンは目を涙で一杯にして、そのまま黙ってしまった。
俺を相手に、今になって泣き落としかよ。バカじゃないのか。
さんざん酷い目に合わされて、見限って出て行ったんだ。
そもそも自分のやった事棚に上げて、何言ってるんだよ。
分かってるよ、今の俺は立派に加害者。
だけど傷ついたし悲しまされた事も事実だ。
もう二度とお断りだ。同じ事繰り返してどうするんだよ。
大体時間が経ち過ぎてる、誰も生きてさえいないじゃないか。
物事は理性的に、論理的に考えなければならない。
悪い結果が見えているなら、回避するのは当然の事。
俺は冷たい奴だよ、それで結構。この十年ずっと1人で生き続けて、俺だって鍛えられたんだ。本当にそう思っていた。頭では。
だけど。何か言うより、涙の方が先に出てきてしまった。
どうして俺が泣かなきゃいけないんだよ。
勝手に待ってて戻って来いだって?知るかそんなもん。
俺は嫌なんだ。きっと同じ物を同じだけ、大事で大好きなんだってお互い分かっているのに、むしろお互いが同じ物を同じだけ大事で大好きだからこそ、そのせいでまたダメになるのが嫌なんだよ。
泣き続ける俺が何も言えないと判断したのか、次に話しかけて来たのはユータだった。
『俺らが勝手に待ってただけやし、負担に思ってくれんでええねん。嫌やったら、それもしょうがないし。な?』
『うん。俺は待ちたくてそうしただけやし、ルートが居てくれるのが1番なんやけど、でもルートが色々思い出したりして辛いんやったら…』
キノも小さな声でユータに同調している。
シュウは
『俺が言ってええのか分からんけど、無理に何かできなあかん話じゃないし、続けなあかん訳でもないし。ものの試しでやってみて、やっぱり嫌やったら止めといたらええし、気が向いたらまたやってもええ事やから』
とりなすように言う。今の俺に結論は出せない。
不思議な程に、冷めた顔で突き放す事も、語気を荒げて拒絶する事もできなかった。