五つの傷が癒えるまで

40代ブラック勤めワープワのおっさんが今更Janne Da Arcを眺めるブログ

www.pixiv.net

 

五つの傷が癒えるまで~Kazuya's side-8~

 

『俺は、どうしようかな。でも2人、待つんやん?』

 

シュウがユータとキノを見て笑う。

 

『やったら、とりあえずで悪いけど、俺も一緒に居ってもええかな。先々どうするかは、また考えて』

『よっしゃ、決定な』

『先々も決定な』

『ん?』

 

なんだか話が纏まったらしい3人が、揃ってこちらを振り向く。

 

『さ、後はタッツンだけやで』

 

おかしそうにキノが言う。

 

『簡単に待つとか言うなよ、もう一体どんだけ待ったねん。それで上手くいく訳なかったから俺は辞めたんやろ。待ってた所でルートがどう言うかも分からんのに』

『でも、またやりたいんやん?』

『俺はルート居なくても、タッツン居てくれたらそれでええわあ』

『どの口が言うねん』

『別に考えたらルートが来るまで待ちながら、一緒に練習したりとか?いやでも先にどっか個人で練習したいかな』

『もう練習の話って』

『4日叩かへんかったらなまってしまうからなあ、今既に元に戻すの大変なレベルやで』

『なあ、ほんまに待つの?』

『俺は、積極的な感じで待っとく。練習もするし曲も作るし、できるんなら他の人とセッション的な事も色々こなして。何かとできる事増やしながら待っとくで』

『積極的に待つ、か。それもええかな。いざとなったら他行けるし』

『もう、なんで他行くの。俺は元々曲は作り貯めてあるし、もっと歌もの増やしたりジャズっぽいインスト増やすとか。誰かに歌って貰うでもいいし、またユータといかにもプログレっぽいもの考えてもいいし』

 

3人は3様に、それなりに道筋を見つけつつあるようだ。

結局、音楽バカな3人。もう誰に聞いて貰える訳でもないのに、それでも考えるのは音楽の事、楽器の事、バンドの事。

まずそれがなければ、他にやる事など思い付く事さえできない人間達。

何の邪気もない、儲けも損得も簡単に跳び越してしまう、そのまんまのバカ正直。

どうしてこの3人と俺なんかが、一緒に居られたんだろうな。

 

わざわざ人に意見するような事もなければ、争ってまで自分を認めさせようとする事もなかった。

物足りない存在だったのだろうが、それでもこの3人があのジャンクを支えていたんだよ。

 

『ほんま自分らお人好し過ぎるわ。よくそんなので生きて来られたもんやな』

『結局寿命なんかほぼみんな一緒やったやん』

『タッツンみたいに悪どい事せんかったって、別になあ』

『悪どいて』

『まあでも、タッツンは実際恨み買い過ぎてるからな』

 

ユータは時計に目を落とし、顔をしかめている。

シュウは伏し目がちに目をしばたかせて。

 

『俺らもう、行かなあかんし』

『うん』

 

ユータも頷いて。

 

『じゃあ、またなあ、タッツン』

『うん』

 

キノはよく分かっていないようだ。不思議そうにシュウとユータを見比べている。

 

『多分俺、タッツンの事も待ってるわ』

 

シュウが言ってくれた。

 

『うん』

『忘れんと帰って来てな、タッツン』

 

多分ユータは分かっていて、こう言ってくれているのだろう。

 

『うん』

 

キノは息を飲み、

 

『嘘やん。何でなん?嘘やんな?』

 

ようやく気が付いたようだ。

 

『うん。俺は、無理やねん』

 

そう、俺は無理なのだ。みんなと同じ世界には行けない。

あまりにも、沢山の人を傷付け過ぎてしまった。

 

キノは元々優しい性格で、周囲に害を為すような事はしなかった。

シュウだって最後まで病気と闘おうとしていたし、ユータに至っては(相手方が喜んでいるかどうかはともかく)人助けの為に命を落としているのだ。

そんな3人とおもらし反吐まみれ死体の俺が、同じ道を歩ける訳がない。

 

やっぱり泣き出したキノも、シュウとユータに促され、連れられていく。

ここからは本当に、俺は1人だ。これで当然。

元々一緒に居られるはずはなかったのかも知れない。

いくら待ってくれたって、辿り着ける事はないのだろう。

 

けれど、3人が一緒に居るのなら。きっと、悪くはない。

目指す場所が同じなら。道行きが違っても、向かう所が同じなら。

どこかで偶然揃ったパズルの4ピースを、見掛ける事だってあるかも知れない。

 

それだけでも、悪くはない。振り返っても、もう3人は見えない。

3人からは俺が見えているのかな?それももう、分からないけれど。

 

どれだけ離れても、それこそ耳をふさごうが。

俺が焦がれてやまなかった、4人の音にまたどこかで出会えるように。

それを頼りにここからは、1人で歩こう。

 

俺だって、もうそろそろ。悪い夢から目覚めなければ。