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五つの傷が癒えるまで~Kazuya's side-8~
『俺は、どうしようかな。でも2人、待つんやん?』
シュウがユータとキノを見て笑う。
『やったら、とりあえずで悪いけど、俺も一緒に居ってもええかな。先々どうするかは、また考えて』
『よっしゃ、決定な』
『先々も決定な』
『ん?』
なんだか話が纏まったらしい3人が、揃ってこちらを振り向く。
『さ、後はタッツンだけやで』
おかしそうにキノが言う。
『簡単に待つとか言うなよ、もう一体どんだけ待ったねん。それで上手くいく訳なかったから俺は辞めたんやろ。待ってた所でルートがどう言うかも分からんのに』
『でも、またやりたいんやん?』
『俺はルート居なくても、タッツン居てくれたらそれでええわあ』
『どの口が言うねん』
『別に考えたらルートが来るまで待ちながら、一緒に練習したりとか?いやでも先にどっか個人で練習したいかな』
『もう練習の話って』
『4日叩かへんかったらなまってしまうからなあ、今既に元に戻すの大変なレベルやで』
『なあ、ほんまに待つの?』
『俺は、積極的な感じで待っとく。練習もするし曲も作るし、できるんなら他の人とセッション的な事も色々こなして。何かとできる事増やしながら待っとくで』
『積極的に待つ、か。それもええかな。いざとなったら他行けるし』
『もう、なんで他行くの。俺は元々曲は作り貯めてあるし、もっと歌もの増やしたりジャズっぽいインスト増やすとか。誰かに歌って貰うでもいいし、またユータといかにもプログレっぽいもの考えてもいいし』
3人は3様に、それなりに道筋を見つけつつあるようだ。
結局、音楽バカな3人。もう誰に聞いて貰える訳でもないのに、それでも考えるのは音楽の事、楽器の事、バンドの事。
まずそれがなければ、他にやる事など思い付く事さえできない人間達。
何の邪気もない、儲けも損得も簡単に跳び越してしまう、そのまんまのバカ正直。
どうしてこの3人と俺なんかが、一緒に居られたんだろうな。
わざわざ人に意見するような事もなければ、争ってまで自分を認めさせようとする事もなかった。
物足りない存在だったのだろうが、それでもこの3人があのジャンクを支えていたんだよ。
『ほんま自分らお人好し過ぎるわ。よくそんなので生きて来られたもんやな』
『結局寿命なんかほぼみんな一緒やったやん』
『タッツンみたいに悪どい事せんかったって、別になあ』
『悪どいて』
『まあでも、タッツンは実際恨み買い過ぎてるからな』
ユータは時計に目を落とし、顔をしかめている。
シュウは伏し目がちに目をしばたかせて。
『俺らもう、行かなあかんし』
『うん』
ユータも頷いて。
『じゃあ、またなあ、タッツン』
『うん』
キノはよく分かっていないようだ。不思議そうにシュウとユータを見比べている。
『多分俺、タッツンの事も待ってるわ』
シュウが言ってくれた。
『うん』
『忘れんと帰って来てな、タッツン』
多分ユータは分かっていて、こう言ってくれているのだろう。
『うん』
キノは息を飲み、
『嘘やん。何でなん?嘘やんな?』
ようやく気が付いたようだ。
『うん。俺は、無理やねん』
そう、俺は無理なのだ。みんなと同じ世界には行けない。
あまりにも、沢山の人を傷付け過ぎてしまった。
キノは元々優しい性格で、周囲に害を為すような事はしなかった。
シュウだって最後まで病気と闘おうとしていたし、ユータに至っては(相手方が喜んでいるかどうかはともかく)人助けの為に命を落としているのだ。
そんな3人とおもらし反吐まみれ死体の俺が、同じ道を歩ける訳がない。
やっぱり泣き出したキノも、シュウとユータに促され、連れられていく。
ここからは本当に、俺は1人だ。これで当然。
元々一緒に居られるはずはなかったのかも知れない。
いくら待ってくれたって、辿り着ける事はないのだろう。
けれど、3人が一緒に居るのなら。きっと、悪くはない。
目指す場所が同じなら。道行きが違っても、向かう所が同じなら。
どこかで偶然揃ったパズルの4ピースを、見掛ける事だってあるかも知れない。
それだけでも、悪くはない。振り返っても、もう3人は見えない。
3人からは俺が見えているのかな?それももう、分からないけれど。
どれだけ離れても、それこそ耳をふさごうが。
俺が焦がれてやまなかった、4人の音にまたどこかで出会えるように。
それを頼りにここからは、1人で歩こう。
俺だって、もうそろそろ。悪い夢から目覚めなければ。