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五つの傷が癒えるまで~Kazuya's side-3~
ぼんやり灯る外灯を見上げる。こんな空じゃ星も見えない。
シュウはどうしてるのかな。
もう星になったんだろうか。それならユータは。
俺の脱退を理由にジャンクが解散して暫くした頃、シュウから検査の為に入院すると連絡が来た。
入院、と聞いて驚いたけれど大した事はない、少し具合が悪かったからしっかり検査だけでもしておこうと思うから、との返事が届いた。
けれど、何もなければわざわざ俺に連絡をよこすとは考えにくかった。
事務所を退所した時、俺は退職金と引換に誓約書に判を押している。
誓約の内容はジャンクについて公言しない、数年間は他所で音楽活動を行わないなど諸々あるが、残った元ジャンクのメンバーに俺からは連絡が取り辛くなってしまった。
多分シュウもそれを分かっていただろうからだ。
病院に見舞った時のシュウは変わった様子もなく、前より少しやつれて、少しだけ痩せた感じがしたくらいだった。
俺のせいで心労をかけてしまったから、と言う俺にシュウは笑って、大した事でもないけど折角やからちゃんと調べとこうと思って、これを機会に健康的な生活にしないとな、今は病院暮らしやから自動的に禁煙中やねんと、本当にいつも通りの穏やかなシュウだった。
話ぶりを聞いて俺も少し安心し、自分1人の体じゃないんだから大事にしてくれよ、と冗談混じりに言い置いて病院を後にした。
だからその夜、シュウの容体が急変した、と聞かされた時には本当に、何の話だと思った。
容体?急変?そんなの何回も手術して何年も入退院繰り返して、本人も周りも覚悟できてるぐらいの人がなるもんだろ?
さっきの今で何がどうなってるんだ?
バイクで走り、病院裏の夜間入口に滑り込む。
窓口でシュウの名前を伝え、随分待たされた後で通されたのは、病室ではなく霊安室だった。
シュウはさっきと変わった様子もなく、前より少しやつれて、少しだけ痩せた感じがするくらい。
違う事と言えば、もう起きないという事ぐらい。
何がどうなっているのか、本当によく分らなかった。
俺の守護神は、突然いなくなってしまった。
前夜から嵐が降り続き、時折雷の鳴る中、シュウの葬儀は親族とごく近しい音楽関係者のみでひっそりと執り行われた。
キノは終始顔を真っ赤にして、話もできない程大泣きしていた。
翌日に自身が主催の野外イベントを控えたユータも、出発時間ギリギリまでシュウと一緒にいてくれた。
ルートは来なかった。
今も、ルートから連絡はない。俺から連絡する事もない。
俺が脱退した時も、ジャンクの解散が決まった時でさえ、ルートは顔も見せないどころか連絡1本寄越さなかった。
全部スタッフ経由で、3人とルートも直接のやりとりはできなかったと聞いた。
自分の所属バンドの解散を決めるのに、メンバーと顔も合わせないリーダー。
よくもそんな事ができたもんだよ。
とっくに分かってはいたけれど、ルートにとってジャンクはもう、そんな程度だったんだ。
前からずっとそうだったじゃないか、と思いながら、また錠剤を口に放り込んだ。