五つの傷が癒えるまで

40代ブラック勤めワープワのおっさんが今更Janne Da Arcを眺めるブログ

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五つの傷が癒えるまで~Kazuya's side-6~

 

『なあ、どこまで行くん?』

『多分もうちょい』

『多分てそれ何なん、どこ行くん?』

 

誰も通らない夜の山道。おばけでも出そうだな、と自分を棚に上げながら歩いていると、後ろからかすかにジャンクの曲が聞こえる。下から上って来る1台の車。ジャンクを聞いてくれているようだ。

車はどんどん近付いて来て、当たり前だけれど俺達に気付かずに通り過ぎていく。

けれど。

 

『あれ、キノやん?』

 

運転席に乗っているのは確かにキノに見えた。

こんな時間に、こんな所で?車は俺達を追い越し、そのまま走り去ろうとする。

でも、そこはカーブ…と思った瞬間、車はブレーキ音を響かせながら道を外れ、崖から落ちていく。

ドーン、と何かがぶつかる音が響く。

 

『うわ、ちょっと待て』

 

思わず叫んで走り上からのぞくと、剥き出しの山肌に車体が横向きに落ちている。

夢中で斜面を滑り下り、車に走り寄る。

 

『キノ!』

 

やっぱりキノだ。エアバックの上に挟まれるような格好のキノ。

頭や口から血が出ている。まさかさっきのドーンという音、キノの頭がぶつかった音なのか?

 

『キノ!キノ!』

 

当たり前だが呼び掛けても届かない。

ようやく斜面を伝いながら下りて来るシュウとユータに向かって走りながら、手を振って叫ぶ。

 

『あかん、救急車や!キノが…』

 

言いかけて。そういえば俺達救急車なんか呼べるのか?

下りて来たユータは時計を見ながら何か考えている。

シュウは何か言いたそうにこっちを見ている。

 

何やってるんだよ、と思った時。後ろでパタン、ドンッと車のドアが開閉する音が聞こえた。

ドアが開いて閉まった?振り返ると呆然とした様子のキノ。

どこからも血なんて出ていない。その向こうには車の中で倒れたままの、キノの丸っこい横顔が見える。

キノはそのままふらふらとした足取りで歩いて来ると、

 

『え、何で2人居るん?え、タッツン何で居るん?え、どうなってんの?大丈夫なん?』

『…いや、自分がやろ』

 

ユータとシュウに続いて俺もこの世を去っていた事を知ったキノはそれなりに悲しんではくれたが、自分までもがこちらの仲間入りをしてしまった事についての動揺は普通ではなく、無理に車の中の自分を引っ張ろうとしたり(俺もやったけど)、自分の体に戻ろうと何度も自分に向かってダイブしたり(その発想はなかったな)、後部座席に積んだキーボードを今更取り出そうとしたり(さすがキノ、ミュージシャンやで)。

 

どれもできないと分かると真っ暗な中うなだれて座り込み、そのうちしくしくと泣き始め、周りにいた俺達を大いにあたふたさせたのだった。

 

『な、キノ、大丈夫やって。』

『ぐすっ…何が大丈夫やねん』

『だって、みんな居るし』

『みんな、こんなになってしまったんや…ひっく』

『そりゃまあ、そうやけど』

『俺、こんな事になる予定やなかったもん』

『俺だってやわ』

『俺もやで』

『俺もやわ』

『冷蔵庫の中身だってまだ一杯残ってんのに』

『冷蔵庫の中身…』

『心配するとこ、そこなん』

『俺は食べ物を愛してるんや、食材無駄にするとかありえへんわ』

『そのエコ意識、素晴らしいけど…』

『エコじゃないで、材料買い溜めすると電気代かかるし、結局食べ切れへんかったりするから、最終的にはエコじゃなくなるねんて』

『言われてみればそうやなあ』

『…ぐすっ…ふえーん』

『お、おおう』

 

言葉を無くして空を見上げると。

 

『うわ、キレイやな。空、ほら星がすごいでキノ』

 

本当に、空は満天の星空だった。昨日ビルの屋上から見た曇った空と同じだなんて、信じられない。

 

『うわー、すごいな』

『ほんま、キレイやなー』

 

星空のおかげで少し落ち着いたキノがぽつりぽつりと話し始めた所によると。

シュウとユータが居なくなった後、キノは何も手につかず、心配した周囲から連絡を貰っても返事もできない状態が続いていたのだそうで。

 

こんな事ではいけないと無理に自分を奮い立たせ、相棒の作曲機材を抱えて、知る人ぞ知る星空スポットに向かっていた所だったのだそうだ。気分を変えて外で1曲作ろうとしていたらしい。無理な事するからだよ。

 

キノに限った事ではないが、ジャンクのメンバーはどこか変に真面目な所があって、無理に何かできなければいけないと勝手に自分を追い込んでしまうような事が割とよくあった。もういい歳なのに、幾つになっても変わらないんだな。

 

空が少しづつ明るくなって来る。犬の散歩に来たらしい老人がキノを見つけ、驚きながらも警察を呼んでくれて。その様子を見ながらキノもそれなりに安心したようだ。

朝日が眩しく輝き始めた頃、俺達は今度は4人で歩き始めた。