■
五つの傷が癒えるまで~Kazuya's side-5~
振り返ると倒れ込んだ自分が見える。
見えるが、ちょっと待て。
『うわ、何やこれ』
思わず声に出てしまった。顔面は紫色だ。
喉元に自分の両手の爪が食い込んでいる。
信じられない程だらしなく伸びた舌。
口の端にまだ泡が見える。
『こんなん見つけた人それこそトラウマやろ、何とかならへんの』
触ろうにも自分の体に触れない。すり抜けてしまうのだ。
慌てる俺を横目に2人は相変わらずだった。
『俺もやったなあそういうの、川で自分見つけて引っ張ろうとしたりとか』
『そうなん?俺は病院やったからやらんかったけど、なんか不思議やったで自分が寝てる所見てんの』
『ちょっとこれ、ほんまこのまんまなん?どうしようもないん?』
『うん。ていうかトラウマって、誰かに見つけて貰うつもりでいるやん?』
『へ?』
『ここ滅多に人来いひんし、正直異臭騒ぎとか腐乱死体とか、なあ』
『まあこの気候やからな。割とあっという間に』
『やめてや、冗談やろ…』
『それに顔ばっかり見てショック受けてるけど、これっておもらし』
『言うなあああ』
『うわ、ほんまや』
『見るなあああ』
どうしようもなく無残な自分の抜け殻は、本当にどうしようもないようだった。
でもこれ本当にこのままでいいの?困惑する俺に2人は行く所があると言い出し、朝日が昇り始めた頃に3人で歩き始めた。
『朝焼け、たまに一緒に見たよなあ』
『あー、スタジオとかでな。朝までかかって』
『大っ変やったけど、楽しかったな』
『そうやな。レコーディング大変やけど楽しい、ぐらいまでが幸せやったな』
『やっぱそうかな。どこで躓いたんやろうな』
『みんなでしょうもない事しゃべるぐらいの余裕も、もうなくなってたからなあ』
『それも大きいかもな。空気感がなくなっていったというか』
生きている間にもっと話せていれば良かったな。
大事な話も、どうでもいい話も。勿論、できなかったのは自分のせい。
だけどそうする事でしか、お互いの気持ちなんて分かりようもない。
どこまで行くのか聞かされないまま夜まで歩き続け、今は街灯の少ない狭い坂道を上っている。